43[破]は開講3週目を迎え、いよいよ文体編集術の総仕上げ「セイゴオ知文術」にさしかかっていく。10月26日、比叡おろし教室の角山さんからセイゴオ知文術の初稿が届いた。22日に文体編集術・後半のお題が届けられ、わずか4日目のことだった。
セイゴオ知文術は、10冊の課題本から1冊を選び、一般の読み手を想定して800字で紹介する編集稽古だ。しかし、ただの紹介文、感想文ではない。松岡校長の千夜千冊を擬き、本や著者のもっているスタイルに合わせてモードを編集する「モード文体術」、知識情報を的確かつ適切に用いて編集する「知文術」を合わせたものが求められる。
稽古の先には、11月10日を締め切りとして、43[破]最初のアワード「アリスとテレス賞」のエントリーが控えている。優秀作として、モード文体術と知文術が高度に融合した作品に贈られるのが「アリストテレス大賞」だ。
前期42[破]の「アリストテレス大賞」は、はじかみレモン教室の福井千裕さんが受賞した。選んだ本は『文字逍遥』(白川静著)。漢字の構造から字の初義を考え、その後の展開を文化史や精神史の立場から紐解く「遊字論」「道字論」を始めとしたエッセイ集で、重厚にして硬質な筆致でありながらも、万葉の詩情薫る白川漢字学の入門書でもある。
福井さんの稽古ぶりは、受賞作を決める選評会議でも話題になった。気がつけば夜が明ける日々が続き、初稿が届いたのは、エントリー前日。回答の余白には、苦しみ、あがいた爪痕が刻まれていた。マーキング、キーワードの書き出し、白川が甲骨文字を書き写していたことを知れば、自身でも文字をなぞり、手を動かす。「たくさんの白川静」を知るために関連書籍にも手を伸ばした。
格闘の末に生み落とされた初稿は、白川静を見事に擬いていた。字義の背後にある呪性をまとい、言葉を扱う覚悟が伝わる。梅澤師範代は「憑依力」という言葉で讃えた。
稽古の中で福井さんは、文字を通して神の声を聞き、生きた人々の面影を追っていた白川静の姿に、自分の魂も共鳴して震える感覚を覚えたという。推敲では「(文字学の)定説を覆した」という出来事に対し、「覆す解釈だった」「覆す事件だった」「覆す発見だった」など、評価づける言葉を入れるべきかどうか、言葉ひとつ、その意味やイメージがどう伝わるかにも心を砕き、最後まであがき続けた。文字と向き合い続けた白川静を常に感じていたかのように。
今、43[破]では、全9教室73名が学ぶ。10冊の本、10人の著者が新たな出会いを待っている。著者の言葉がどのようにして生まれてきたのか、自分のヨミをもって迫ることで新たな見方や言葉を獲得し、思いもよらなかったメッセージに出会えるだろう。未知へと挑む、セイゴオ知文術に期待したい。
わたなべたかし
編集的先達:井伏鱒二。けっこうそつなく、けっこうかっこよく、けっこう子どもに熱い。つまり、かなりスマートな師範。トレードマークは髭と銀髪と笑顔でなくなる小さい目。
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